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2017年09月30日

「品種改良の最前線!最後の決め手はベロメーター」 農研機構 別所さん

農業・食品産業技術総合研究機構 品種育成研究領域長 別所さん

voice40_6p_01.jpg農業を支える品種改良等の技術について、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(以後、農研機構)果樹茶業研究部門 品種育成研究領域長 別所さん(右写真)にお話を伺いました。

(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」40号/2017年秋号より転載)

品種改良の最前線!最後の決め手はベロメーター

―まず、貴機構について教えてください。
 当機構はさまざまな作物から畜産、農業機械、食品、環境など農業や食に関わる幅広い分野について取り組む国立の研究機関です。
 その中で、ここ果樹茶業研究部門 品種育成領域では、ナシやクリ、核果類(モモなど真ん中に大きな種子がある果実)の育種や、育種技術の開発、遺伝資源の解析や収集・保存等を行っています。
voice40_6p_02.jpg 核果類の育種ですと、例えば最近発表したモモの品種「さくひめ」(右写真)は、温暖化対策の一つとして開発された品種です。モモが花を咲かせ実をつけるには一定量の低温が必要ですが、温暖化が進行し冬の低温量が少ないと芽の出方が悪かったり正常に花が咲かないことがあります。そこで、ブラジルのモモと日本のモモをかけあわせて、低温要求量が少なく、かつ味の良い品種を開発しました。

―開発にはどのくらいかかりましたか?
 「さくひめ」は三世代で約22年かかりました。果樹は交雑をして品種登録の出願をするまでに最短でも一世代15〜20年程はかかるので、早い方だと思います。

―ずいぶん時間がかかるのですね!
 樹が育って花が咲いて実がついて、それを選抜して交雑して育てて、という繰り返しですからね。私の専門はリンゴですが、開発に関わった「ふじ」は23年かかりました。余談ですが、最終的に選抜する判断材料は人間の舌です。育種家の勘というか、ベロメーターというか(笑)。 リンゴの育種をしていた時は1日約200個は食べていましたよ。

―なかなかハードですね!選抜された実が実際に品種登録されるまではどのような流れがあるのでしょうか?
 有望系統を選抜した後、「系統適応性検定試験」といって都道府県の試験場で栽培試験をしてもらい、高い評価を得たものが品種登録されます。最終的に品種登録されるのは、例えばナシだと1000個体から1個体くらいですね。

voice40_6p_03.jpg    
△ナシ畑。幼木から成木まで植わっている。

―気が遠くなりますね…その分、品種が広まると喜びも大きそうですね!
 そうですね、やはり皆さんにご利用いただいて「あの品種いいね」という話を聞いた時は嬉しいですね。農業経営で価値のある品種を「経済品種」と言い、1%のシェアを取ることも大変ですが、「ふじ」は約50%を占めています。力のある品種が出ると産地も活性化するので、これからも今までにない経済品種の開発に取り組んでいきたいと思います。

―まさに縁の下の力持ちですね!ところで、品種を発表したあとは現場任せなのですか?
 出して終わり、ではないですよ。品種の普及拡大に伴い試験段階では出てこなかった生理障害などが出てくるので、その都度どういった対策が必要なのかを都道府県の試験場の担当者と一緒に検討したり、新たな研究プロジェクトを立ち上げる場合もあります。メジャーな品種ほど農業への影響も大きいですし、アフターフォローも重要です。

―農家さんと接する事もありますか?
 よくありますよ。生産者大会や研修会等で講師として呼ばれることもありますし、農家さんが当機構へ視察に来られる場合もあります。お付き合いのある農家さんとは「あの品種はどうですか?」など情報交換をすることもあります。

―フランクですね!研究者の方はずっと研究室にこもっているイメージでした。
 所属ユニットによって異なりますが、育種は調査を含め半分以上が畑仕事ですね。春先は苗を植え、冬場は寒いなか剪定作業をし…半分農家です(笑)。昔は畑仕事の方が多かったのですが、今の若手研究者は早いうちから論文も書かねばならず、畑仕事と論文の両立が求められるので少しジレンマがあるかもしれません。

―具体的な仕事内容まで教えていただきありがとうございました。最後に学生に一言お願いします!
 「現場」を見てください。実際に現場を見ると、考えている世界じゃないかもしれないし、より良いイメージを持たれるかもしれない。当機構もインターンシップ制度がありますし、そのような色々な機会を活用して現場を見てほしいですね。

公式サイト

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)
⇒ http://www.naro.affrc.go.jp/



※記載情報は取材当時のものです。
※無断転用・転載・改変を禁止します。引用の際は、当社までご連絡ください。
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2017年03月30日

「新しいアイディアで新規就農者を育成する!」新潟県三条市

「県外の農業法人で研修を積んでから当市内で新規就農」という方法に取り組んでいる新潟県三条市。
この珍しい取組みを始めたきっかけは?三条市役所 経済部農林課 係長 渡辺哲也さんに、事業内容や農業者育成にかける想いなどを伺いました!
(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」37号/2016年冬号より転載)

新しいアイディアで新規就農者を育成する!

37号_渡辺さん.jpg―多くの自治体では「県内で農業研修を積んで県内で就農」という就農支援策を取られていますが、なぜ貴市では「県外の農業法人」で研修を積むのでしょうか?

 三条市の農業で他の農業者が目指すべき一番星となる農業者を育成するために最適な方法だと考えたためです。
 ここ新潟県三条市は越後平野の真ん中にあり広大な農地を有しており、お米の生産を中心とした農業が行われてきました。一方で、「刃物等金属製品の加工が盛んなものづくりの町」でもあり、工業を中心とした仕事が多くあります。米の需要の落ち込みが続き農業者が転作対応をする中で兼業化が進んだことで、市内の農業者の80%以上は兼業農家という状況です。
 このことは、市内に農業者の安定的な就業先はあるものの経営として成り立つ農業は進んでいないということです。この状況を受け産業としての農業という原点に帰って考えた時に、「安定兼業≠ヘ国土保全や地域コミュニティの維持など重要な役割を果たしておりその維持は重要だが、農業だけでごはんを食べていける経営の育成が必要ではないか」という議論になりました。

 そこで、「農業だけでごはんの食べられる経営」の育成を進めよう、そのためにどうすれば良いのか、ということで先進農業者の事例調査を行ったところ「価格決定力」というキーワードを見つけました。
 この「価格決定力」とは、自ら生産する農産物を市場相場等に左右されずに自ら決めた価格で販売できる力ということです。その力をつけるためには「価格決定力」のある農業者から直接指導してもらうことが良いと考え、先進農業者の事例調査も踏まえ、茨城県で「小さくて強い農業」を展開する(株)久松農園さんと、長野県で大規模農業を展開する(有)トップリバーさんに、「価格決定力」のある「研修派遣先」としてお願いするに至りました。この取組を踏まえて育成された新規就農者が本市で営農を行うことで、市内の既存の農業者にもその営農手法などがおおいに波及していくことを期待しています。

37号_ 三条市チラシ.jpg―2社とも有名な農業法人ですね!ところで2社の作目は野菜ですが、野菜での新規就農を支援されているのですか?

 作目は稲作であってもかまわないと思っています。しかし、稲作や畜産は初期の設備投資にかなりお金がかかるなど新規就農者にはハードルが高いため、比較的設備投資がかからず稲作より少ない耕地で単位面積当たりの収益性を確保できる経営として野菜での研修に重点化することにしました。しかし「価格決定力」の確保とは、そのための生産技術の取得もさることながら、「価格決定力」を確保するための営業・販売技術をも備えることになり、このことが本市の取組の肝となっており、稲作においても十分に応用できると考えています。
 ただ、三条市は地理的に冬場は雪が積もるので、その間をどうするかという戦略を考える必要があります。必要な農業機械等の投資については県や国などの事業を活用しながら支援できればと思っています。

―最後に、学生に一言お願いします!

 農業は非常に魅力のある産業だと思います。農業をやるためにいろんな事を自分で考え、自分の裁量で経営を行い結果は全て自分に返ってくるのです。その意味で農業は最高の自由業だと思っています。また、農業はまだまだ開拓できる部分があり、例えば消費者のニッチでディープなニーズを開拓して新たな農産物の流通を構築するなど、やり方次第では大きく発展する可能性を持っています。
 ここ三条市は都心から新幹線でわずか2時間のところにありながら都市部と広大な自然が共存する「ほどよく田舎」なところです。「農業をしたい!」という方は、ぜひ三条市にも目を向けてほしいですね!

●事業の詳細 ⇒ http://www.city.sanjo.niigata.jp/nourin/page00260.html

「自立と自走」のために

 研修先の1つである「株式会社 久松農園」は、有機農業で年間50種類以上の野菜を生産し、個人や飲食店等への直接販売を軸にした農業経営をされています。
 代表の久松達央さんは、1998年に一般企業を退職後、1年間の農業研修を経て1999年に独立就農。今回は久松さんに、この事業に期待することなどを伺いました。

37号_ 久松さん.jpg● この事業で期待していることは?
 冬場の雪、中山間地という条件不利地域でも自立した農業経営が行えれば、地域の資源は守られます。人口減時代の日本の新しい農業のモデルをつくっていくこと、それを広く発信していくこと。

● 人材育成への想いを教えてください。
 おいしい野菜でお客様を喜ばせる、という価値を提供し続けるためには、当人がおいしい野菜をつくれるだけでは不十分。おいしい野菜をつくれる人をつくる、ことまでやってはじめて仕事と言えます。

● 農業を志す学生へ一言!
 好きな仕事でメシを食うキーワードは「自立と自走」。自立とは、信念を曲げずに生きられるだけの精神的経済的基盤を持ち続けること。自走とは己の力でPDCAを回して、やればやるほど経営が良くなっていく推進力を持つこと。一人ですべてをこなすことなど無理です。何をやるか、よりも誰とやるか、を真剣に考えてください。

【株式会社 久松農園】
住 所: 茨城県土浦市高岡
URL: http://hisamatsufarm.com




※記載情報は取材当時のものです。
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2015年09月30日

提案力と行動力で、県の農業を底上げする!【大分県庁 加藤典臣】

大分県庁 加藤典臣

voice32_7p01.jpg「公務員も民間企業と変わらないですね」。
取材の最後に思わず口にしたこの言葉は、大分県職員・加藤さんのお話をお聞きし自然と出てきました。具体的にどのような取組をされてきたのでしょうか?!

(※当社発行の農業フリーペーパー「VOICE」32号/2015年秋号より転載)

提案力と行動力で、県の農業を底上げする!

―加藤さんはこれまで「担い手確保専任職員」として新規就農者の確保・育成をされてきましたが、具体的な内容を教えていただけますか?
 大分県では、平成22年度に「27年度までの5年間で1,000人の新規就農者を確保する」ことを目標に、新たな取組として「担い手確保専任職員2名募集」という求人型庁内公募が出ました。「これは私になれと言っているんだろう」と思い込み(笑)、応募し面接を経て無事採用され、23年度から4年間、新規就農者の確保に取り組んできました。
 在任中は就農者確保のために、まずは当県の取組みや魅力を知っていただこうと、県内外の農業法人や学校等に営業へ行きました。出張も多く、1年目は年間約60回、つまり100日以上は全国各地へ行っていました。ただ、その年は成果がほとんどなく・・・、「なぜ駄目だったのか。やり方に問題はなかったか」と事業を検証し、他県の優良な取組や企業の手法を参考にしたり職員同士で案を出し合いました。そして新たに、農業を学べる研修制度や、県独自の就農相談会を県外で実施するなど、当時としては画期的な取組を実施し、功を奏しました。

―民間の営業活動と同じですね。
 変わらないですね。実は私は、19年度に「農業企業参入」の部署に異動しましたが、この時に営業を学びました。これが大きなターニングポイントでしたし、「担い手確保専任職員」に応募する大きな原動力でもありました。
 その部署では、農業参入を考えている一般企業に働きかけて、大分県で新たに農業をしていただくという企業誘致の業務をしていました。全く繋がりのない一般企業に「こういう取組みをしているので是非お話を聞いください」とDMを送ったり電話などをして、実際に会社へ伺い面談をし、話を進めていく。45歳にして初めてそういう仕事に携わったので、最初は電話をするのも緊張しましたよ(笑)。

―それらの営業技術はどのようにして得られたのですか?
 上司である課長が率先して手本を見せてくれました。「電話はこうかけるんだ」から始まり、最初の4〜5社のアポ取りや面談後の仕事の進め方など、色々なことを教えてくれました。課長は他の部署で企業誘致を担当されていたこともあり、実践者から学べたことは非常に大きかったですね。

―農家さんと企業さんだと、対応方法も異なりそうですね。
 「話をする」ことに変わりはありませんが、どちらかと言えば農家さんに働きかける方が大変だと思います。例えば、農産物の品質改善や栽培方式を変えるというのは、今までの方法や考え方を変えていく、つまり農家さん自身を変えていかなければならないのですが、新たに農業を始める企業さんだと、プランを説明して数字を見せて、企業さんが決断をすれば事業として進めることができます。

―当時は、どのような企業さんをご担当されていましたか?
 ワタミファームさんや住友化学さん、JR九州さんなどを担当しました。初めての事も多く苦労もしましたが、多くの企業さんから非常に勉強させてもらいましたよ。なお、27年3月末現在では、延べ190件を超える企業(県内・県外合計)が大分県で農業をしています。

―ところで加藤さんは、他にどのような部署に就いたことがありますか?
 私は農業職で入庁したので、主に農業関係の部署に就いています。最初は病害虫防除所に配属され、「水稲の病害虫発生予察業務」を担当していました。管県内に数十か地所調査地点があり、稲の生育状況に合わせて、ウンカ等の害虫や「いもち病」などの発生を調査し、防除情報等を出すという業務です。
 県庁では、農産業課、研究普及課、農山漁村・担い手支援課に勤務し、前述の企業参入や担い手の確保・育成、そのほか米の生産調整業務など行政的な仕事をしました。他には、普及センターにて集落営農の推進や花卉の普及指導員をしたり、行政の出先機関である振興局へも行きました。なお、現在の所属先は、大分県立農業大学校です。
 随分異動が多いと思われたかもしれませんが、大分県は基本的に4〜5年での異動となるので、他県の方に比べれば少ない方だと思います。

―最後に、学生へ一言お願いします!
 自分で提案をしたり、やりたいことを見つけて取組めば、仕事も楽しくなり、開けてくると思います。今の公務員は定型の仕事をこなすだけではないので、次の展開をイメージしながら、どんどん提案してほしいですね。
 あと、大分県職員は他県出身者も多く、農業職の採用人数も多い方だと思うので、まずは門を叩いてみてください。




※記載情報は取材当時のものです。
※無断転用・転載・改変を禁止します。引用の際は、当社までご連絡ください。
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